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飛天

平成9年 「厳粛な綱渡り(MEMORIAL 40 YEAR)」

- 飛  天 -
(平成9年事業発展計画書より)

 ふくや......福岡の明太子の老舗ふくやの通販が大健闘している。この10年間で顧客リストは3万人から60万人に急増した。通販での売上げは全売上の約半分の80億円近くまでになっている。通販につきもののクレームは、商品の未着と延着だ。ふくやは現在、北海道から沖縄まで24時間以内で配送できるようにしている。12時30分までの注文ならば、商品は翌日中に届く。「つぶれていた」「皮が破れていた」「期待した味ではなかった」というクレームも多い。男性社員もシドロモドロになってしまうほどの厳しい口調の本物の電話クレームをテープに取って、対処の仕方を勉強するなど、電話応対の研修は頻繁に行なっている。こういう努力の結果、ふくやではクレーム客の9割を常連客にすることに成功している。
 中村食品産業......札幌の漬け物用調味料の中小メーカーだが、「名刺がわりのラーメン」を作って売上を7000万円から1億5000万円に伸ばした。幅11センチ×縦17センチ×厚さ2センチの紙箱の背中に名刺を挟み込むための切り込みがついている。箱にインスタントラーメンを入れ、名刺を挟んで相手に渡す。開発にあたり注意していることは①ネーミングに工夫を凝らし「笑い」を生み出す。「単身赴任のお父さん専用、祈・健康ラーメン」などだ。②意外性のある商品を作る。中を開けるまでラーメンとわからない人もあり、開けた時の驚きにより営業マンはコミュニケーションをとれる。③商品をシリーズ化する。醤油味、みそ味、塩味、そば、そうめん、うどんと豊富にとり揃え、ギフト商品では「第一章 青春編」「第二章 望郷編」などで営業マンが再び通う口実ができる。これらは従来のスーパー、小売店という固定的な取引先を越え、生命保険、家電販社など広範囲な法人、企業との取引開始に成功し収益面でも大きな効果をあげている。
 矢口納豆製造所。......埼玉県のこだわり納豆の老舗メーカーだが移動販売を開始して5年間で売上を5000万円から3億円に6倍に伸ばした。上部にスピーカーが付いているミニバンを使用し、会社から往復1時間半のエリアを廻る。ターゲットのエリアにまずチラシをまく。チラシには「○月○日にうかがいます」と書いておく。サービス券も付いている。商品名を「がんこおやじ」から「GANK0 0YAJI」にした。移動販売スタッフの平均年齢は24~25歳である。「がんこおやじのNATTO倶楽部」というミニ新聞を発行している。食べ方に関して「納豆そうめん」「納豆スパゲッティ」「納豆トースト」「納豆がけカレーライス」などさまざまな料理法を提案している。「少しでも顧客の側に近づきたい」そんな思いが顧客に伝わり、顧客を増やした。
 アマタケ......需要減の市場の中で製販一貫してこだわりを追求し日本初のブランド鶏「南部どり」を開発。150億円の売上げを達成、年々収増益を続ける岩手県の鶏肉メーカー。通常より10日以上長い飼育日数を確保し、飼料から魚粉を排除し豊富な栄養素を持つ樹木成分を加え、活性水を飲み水に限定し、更に人体に影響を与える抗生物質は生後21日間だけしか投与しない。受注生産体制は、まず年間販売計画を立て、それを3ケ月前、1ケ月前と見直して行き最終的には店頭販売の前々日に注文をとり、翌日処理し、その翌日に店頭に並んでいる。処理の24時間後に食卓に並ぶ。それが最もおいしく食べられるからだ。商品はすべて氷温配送で小売店舗のバックヤードか小売の配送センターに届ける。これらの仕組みを「アマタケ・トータル・インテグレーション・システム」と呼び世界中に例がない。末端価格は通常の国産の1.5倍、輸入物の3倍である。販売は問屋経由から小売店直販を基本とし鶏肉の全部位を扱ってくれる品質にこだわりを持った中小スーパーにした。セールスは1人1~5チェーン店数30~50店を担当する。販促ツールは、生活カレンダーが記された「メニューカレンダー」、素材から調理済み食品まで揃えた「企画提案書」、前年実績数字が記された「オーダー表」である。
 白瀧酒造・......常識破りの商品開発と顧客の絞り込みでジリ貧市場の中、売上げ4億円から40億円の10倍増を実現した新潟県の伝統の日本酒メーカー。閉鎖的な販売環境の中、越後湯沢のスキー客と対話を開始し、試作を繰り返し、ついに「日本酒って、こんなにうまいの!」と若い女性達が叫ぶ酒に辿りついた。「会社をこわす」「商品をこわす」「人をこわす」3つの革命を実施した。建物を壊し「マーケティング室」「リテールサポート室」「ショッピング室」を作った。ワインづくりの技術を組み込み杜氏が手を出せない生産設備に変えた。杜氏は検査室に移し、年寄りをはずして議論と研究ができる若い世代を中心にした。有力な得意先が逃げ「いずれ潰れる」と言われたが若いお客がやって来た。上善如水(ジョウゼンミズノゴトシ)、雪解け水のようにサラサラ飲めるお酒が開発された。峰深水清(ミネフカクミズキヨシ......。その地に宿る水)、さらさら、白瀧花和(シラタキハナノシ......・ただただ、酒を楽しんでいただくために)などが相次いで開発された。若い経営者の酒販店を開拓した。スーパー、コンビニ、ァィスカウンターも開拓した。日本名酒会、タウン誌、クリスマスなど多様なイベントを間断なく開催した。「日本酒の新しい流れ」をつくろうとした。勉強会を次々に開催し、卸店セールス、酒販店オーナー、消費者を徹底して教育しようとした。2000石の蔵が2万5000石のメーカーに変身した。

 400年前のスペインの作家セルバンテスが書いた『ドン・キホーテ』という作品がある。痩馬にまたがり、騎士道を信じ、風車に向って突進するドン・キホーテの物語が語り伝えられるのは、その夢が非常識なものであるにかかわらず、あくまで美しいからである。6代目尾上菊五郎は生涯踊り続けた人生の最後に及んでなお『まだ足りぬ、踊り踊りてあの世まで』と辞世の句を詠んでいる。

「起業家精神とは何か。私の定義は夢を実現しようとする情熱だ」とスターバックスコーヒー(全米で450店舗の高級コーヒー専門店を展開。売上300億円過去3年間で5倍、昨年日本に上陸)のハワード・シュルツ会長は言う。「現在の環境に満足していないのなら、自分で熱中できる仕組みをつくればいい。多くの人はあまりにも早くあきらめすぎる。自分の人生なんだからもっと執着を。」
「大企業が寡占している市場は逆にチャンスがある」とブルームパーグ(金融機関に市況情報などをオンラインで提供。創立13年で売上高600億円)のマイケル・ブルームバーグ会長は言う。スキがなさそうに見えるがどの企業も似たり寄ったりなので、彼らと違った方法で切り込む余地がいくらもあるからだ。市場が成熟しているから、というのは理由にならない。そう思い込んでいるのは企業の独断かもしれない。顧客はいつも新しい刺激を求めている。「他社の動向?それより、君自身がこれはすごいと思うことを提案してくれ。」
 アンカー・ブルーイング(米国地ビールメーカーの中堅、地ビールブームの先頭を走り過去5年間の平均伸率20%)のフリッツ・メイタグ社長もこういう。「人間は1万年以上も前から事業を興してきた。新しいことを始めたいという欲求は、だれもがもつ自然な感情だ。常識があればいい。」

 事業の繁栄発展の究極は、たった二つのコンセプトから成り立っている。
 一つは成長拡大させること。もう一つは、安定させることである。この二つの哲理を同時に戦略課題とし、実行して、はじめて繁栄発展が起こる。二つのうち、どちらかの一つが欠けても事業の繁栄発展はありえない。

 日経ビジネス編「強い会社」は言う。
「日本企業も外国企業も『強い会社』の姿はよく似ている。キーワードは三つのポイントだ。①コア・コンピタンス(核の力)②カスタマー・フォーカス(顧客重視)①スピード(速さ)。自分の会社にとって`核″となる″力″がどこにあるのか。何が自分の本業であり、自分がどの分野で戦うべきかを知り、そこへ経営資源を集中する。中小企業だから、大企業に負けるのではない。自らが勝負できる分野を見定めぬまま事業を展開するから、大企業に押しつぶされる。常に揺れ動く激しい変化の時代に信じられる唯―の確実な指標こそ顧客なのである。顧客の本当のニーズ、期待、不満を読み取り、新たな製品、サービスを市場に送り出す。変化が激しい世界では、今日正しかったことが、明日も正しいとは限らない。不確実な世界での競争に生き残り、成長市場に地歩を固めるためには、素早く企業も代わり続けるしかない。」

 私達は、全くの偶然に、運命の悪戯から、同時代に生まれ、マリンフードに働いている。食品産業に従事している。
 環境の激変に耐え、激しい競争に生き残り、目標にチャレンジし、売上や利益が順調であり続ける事ほど企業やその社員にとって幸福なことはない。そんな会社を、未来につながるナイスカンパニー、エクセレントカンパニーを創り上げることが出来れば、その原動力となることが出来れば、偶然に入った会社、偶然に出会った運命の中で、一回きりの私達の人生が、どんなに輝いたものになるだろう。

「人間は誰でも、本来、何事をも、自分が深く思い、考えた通りに成すことが出来る。自分がもし出来ないと思えば何事も出来ないし、出来ると信念すれば、何事をもなすことが出来る。つまり、すべてが自分が自分自身に課した信念のとおりになる」(中村天風「成功の実現」)

 今年で事業発展計画発表会は11回を数える。この間の成果は、遅々とだらだら坂を登る歩みであった。しかし、なおかつ今ふたたび、私は精魂こめて、お客様に対する考え方、あらゆるサービスの姿勢、心、信念する経営思想を書き続ける。全社員とその家族が、気力を漲らせ、豊かで、明るい生活を営むために遂行しなければならない必達の売上、必達の利益が明示してあり、それを実現するすべての戦略、方針、構想、実行手段が網羅されている。私は大いなる願望(マリンドリーム)達成に向い、ひたすら精進し、方向を決定し、理念を固め、誠意をもって、情熱あふれる経営を推進することを、天から課せられた使命だと考え、実行する。

平成9年1月25日
取締役社長 吉村直樹