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飛天

平成19年 「火の鳥(鳳凰、フェニックス或いは不死鳥)」

- 飛  天 -
(平成19年度事業発展計画書より)

 作家塩野七生さんの「ローマ人の物語」全15巻が、昨年暮に完結した。年に一冊づつ15年で全15巻。目が眩むような膨大な仕事です。毎年年末に買い求め、1月の半ば過ぎから読み初めるのを習わしにしていましたが、新しい喜びを天から授かった気分でした。中で好みのベスト3は何巻かと問われれば、躊躇いもなく第1位が「ジュリアス・シーザー」を扱ったⅣ・V巻。第2位が若きローマの骨格が出来上った「ハンニバル戦記」(II巻)、そして第3位がローマ帝国のインフラ(社会資本)を扱った「すべての道はローマに通ず」(X巻)です。それまで帝国と言えば、井上靖さんの「蒼き狼」でとどめを刺す史上最大の「モンゴル帝国」が一等好きでしたが、「すべての道はローマに通ず」を読んで以降、ローマ帝国に宗派替えをいたしました。東ローマ帝国まで含めると2000年を超える歴史が続いた根幹がそこに秘められていました。
 ローマが建国されたのは今から3000年近く昔です。元老院なる議会が誕生したのが2500年程前。これは日本の弥生時代の初期ですが、その頃日本にはどんな政治があったのでしょうか? その後ローマはジュリアス・シーザーを経てローマ帝国が始まります。地中海、ヨーロッパで全べての戦いに勝利したシーザー。
 2000年前のローマ帝国に張り巡らされた15万kmのローマ街道の基本形は下記の構造です。工事は全てローマ軍の兵士達が行いました。現代の日本の道路が貧弱に見えて仕方ありません。なんとも驚き入ってしまいました。
ローマ街道
 軍隊や一般の人々が街道を通るのは勿論ですが、すでに国営郵便馬車が街々を繋ぎ、旅宿、馬交換所、飲食所が等間隔で設営されていました。他に水道、学校、病院など信じられない程にローマはインフラを整備して行きます。
 何故ローマ人は「インフラ整備の父」と呼ばれるまでになったか。塩野さんは書きます。「......ある言葉にぶつかった。『モーリス・ネチェサーリエ』という。日本語訳を試みれば『必要な大事業』とでもなろうか。しかもこの言葉の前に『人間が人間らしい生活をおくるためには』という一句があった。つまり、ローマ人はインフラを、『人間が人間らしい生活をおくるためには必要な大事業』と考えていたということではないか。このことは私を、しばらくの間考えこませるに充分だった。」

 事業の繁栄発展の究極は、たった二つのコンセプトから成り立っている。
 ―つは成長拡大させること。もう一つは安定させることである。この二つの哲理を同時に戦略課題として、実行して、はじめて繁栄発展が起こる。二つのうち、どちらかのーつが欠けても事業の繁栄発展はありえない。

 珍らしく塩野七生さんが政治家について語っている。
 「―――安倍首相には説得力がありますか。  塩野 誠意はあります。安倍さんは答えればいいことの10倍の量、誠心誠意答えている。普通の人なら飽きてしまう。芥川龍之介の言葉ではないが『ときにはうそでしか表現できない真実もある』。  ―――小泉氏は選挙の結果で説得力を示しました。  塩野 マキアヴェッリは『民衆は抽象的な問いかけをされると間違える場合があるけれども、具体的に示されれば相当な程度に正確な判断を下す』と言っています。安倍さんは誠実に答弁しているが、言っていることがだんだんわからなくなってしまう。......私か振付師だったら、彼の性格に合う戦略を考えますね。―――具体的には。  塩野 官房長官に彼と全く違った人間をもってくるべきでした。それから彼の言葉をいちいち翻訳していると、外国の人はわからないから、練達の通訳が必要です。安倍さんが言うことを半分に縮めてもらう。 ―――小沢代表は。  塩野 私はある時期、小沢さんを面白いと思っていました。しかし、彼は勝負しない人ですね。勝負するときに逃げてしまう。高級なバラの花には花屋さんがいろいろな細工をするが、しばしば満開にならないで枯れてしまう。 ―――政治家は善人にはできませんね。  塩野 一度だけ小泉さんにお会いしたことがあります。彼は私が書いた『マキアヴェツリ語録』の『天国へ行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである』という言葉が一番好きだと言いました。......私か好きでないのは天国に行く道ばかり言う人です。『天国にお手てつないで行きましょう』と言って、地獄を忘れさせてしまう。これがいけないと思います。......ある政治家が『政治家は有権者のニーズをくみ上げて......』と言うから、私は『有権者は自分のニーズをはっきりと分かっていない。あなたがそれを喚起すればいい。すでにあるものを汲み上げるだけなら政治家は必要ない』と言ったのです。 ―――日本のナショナルアイデンティティーをどう考えますか。  塩野 自然に出てくるもので、我々は自分たちに必要なことをやっていればいい。それがわからないほど日本人は馬鹿ではない。......日本はうそも言えないし、演出もできない。口べたで結構だが、言ったことは必ず実行しましょう。『美しい国』とまでは言わなくても『いい国』にはなったほうがいい。そのためには具体的で小さなことを一つずつ解決していくべきです」(日経新聞2007年1月4日朝刊)

 「タイの首都バンコク。私立バムルンラード国際病院には日本から年間1万6千人もの患者が押し寄せる。日本人が多く利用する保険適用外の視力回復は日本なら50万円かかるものも多いが同病院では半額以下で受けられる。......日本に国境を超えてやってくる病院もある。世界最高峰の米ジョンズホプキンス大学。東京ミットタウンに今年3月新設される『東京ミッドタウン・メデイカルセンター』と提携する。保険適用の一般外来に加え、最先端の自由診療も提供する。院長に就任する田口淳一は『同じ安全性の下でエコノミークラスとフアーストクラスがある飛行機と同じ』と語る。高齢化が急速に進む日本の医療は、世界から見れば『成長産業』だ。日本の医療費は年間32兆円だが、2025年には69兆円に達すると厚生労働省は試算する。......神奈川県が構造改革特区を利用した株式会社による医療機関第一号の申請に乗り出す。神奈川県医師会長の田中忠一は『絶対反対だった』。だが議論を重ねるうちに考えを変えた。高額な高度医療はいつしか一般化し、いずれ全体の医療水準を底上げする。」
 「インド南東部タミルナド州アングチェテイパラヤム村。腰巻きを巻いた老人がはだしで牛を引き、たらいに身を沈めた男性が人目もはばからず体を洗う。3年前のある日、ここにインターネットがやって来た。......地元の穀物会社EIDパリーが1台の中古パソコンを無料で提出した。小さなパソコンに映る小さな窓。......サトウキビと米を栽培する農家のアリバッチ(41)がぎこちなくマウスを操作する。のぞき込む画面は、米シカゴ商品先物取引所にまでリンクする農業総合情報サイトだ。ネットで栽培技術を学び正確な気象予測情報を手に入れ、村の生産性は大幅に向上した。作物の国際相場を知ったことも豊かさをもたらした。......アリバッチの年収は3割以上増え、およそ18万円になった。村の長老ゴハンダサマ(70)が語る。『こんなにたくさん役に立つ情報を引き出せるなんて。村はどんどん豊かになっている』。」
 「12ヶ月間、毎月1冊ずつ書き下ろし小説を連続刊行する『大河ノベル』という試みが始まった。挑むのは西尾維新と清涼院流水。このうち西尾の『刀語(かたながたり)第1話』は1月10日の発売を前に、予約だけでオンライン書店bk1のベストセラー2位(1~7日)につけるなど早くも話題になりつつある。『刀語』は、ある刀鍛治が鍛えた12本の刀をめぐる剣士たちの物語。清涼院の『パーフェクト・ワールド』は特殊な能力をもち、1日に1分間だけ、秘密のヒーローとして人助けをするという主人公が京都を舞台に活躍する。イラストや字体も工夫を凝らし、ビジュアルにも力が入る。雑誌連載なら珍らしくないが、後で修正の利かない単行本だ。当事者たちは『向こう見ずな冒険』と強調する。......清涼院はまた、ゲーム作家の飯野賢治と組み、鉛筆でこすると登場人物の心理描写が浮き上がる特殊印刷を施した『レッドブックワルツの雨』も刊行したばかり。本というメディアの新たな可能性に挑戦する先鋭たちの実験に注目したい。」

 「人間は誰でも、本来、何事をも、自分が深く思い、考えた通りに成すことが出来る。自分がもし出来ないと思えば何事も出来ないし、出来ると信念すれば、何事もなすことが出来る。つまり、すべてが、自分自身に課した信念のとおりになる」
(中村天風「成功の実現」)

 『成長拡大』とは、どんなに経済環境が悪化していても、前年よりもお客様の数を増やすことだ。前年よりも売価の高いもの、粗利益の高い新製品を問発し、お客様に新鮮な驚きを与え、数多く買って頂くことである。これ以外の成長拡大はあり得ない。私達はお客様を増やすために、新規訪問をくり返し、商品説明会を行い、ミニマリン会で来社願い、同業他社の製品を、サービスを調べ、我社の製品のサービス向上に努め、お客様が感動する新製品を開発し、改善をくり返して生産効率を上げ、他社と全ゆる方向で優位の差別化を目指さなければ拡大できない。
 『安定』とは、自分の会社で売っているものが、商品であっても、サービスであっても、形があっても無くても、その売りものを、同じお客様が、くり返し、くり返し、くり返し買っていただくことである。これ以外の安定はない。だからこそ、私達は徹底的なお客様第一主義を貫き、定期訪問を欠かさず、人間性を可愛がって頂き、品質を高め、正確な納品に努め、時に食事会やゴルフ会にお誘いし、同じお客様が、くり返し、くり返し、くり返し発注される要素を、他社よりはるかに秀でたものにすることこそが、私達に課せられた安定の大テーマである。

 私達は、宇宙の悠久の歴史の中で、全くの偶然に、運命の悪戯から、同時代に生まれ、マリンフードに働いている。食品産業に従事している。
 私達の携っている食品事業は、バブル経済はもとより、家電、電子業界や、情報、通信、自動車、アパレル、住宅産業と比べても、限りなく地道でローテク、保守的な産業だ。おふくろの味つけを好む性向は、かつて食べたことのない食品の出現を阻み、ファッションや趣味に比べて、生涯最も変わることのない嗜好性だと言われている。しかし、ひとたびお客様に我社の商品を注文していただければ、それを縁に何回でも幾年も変わらぬお取引をして頂ける。実に恵まれた事業でもある。

 今年で会社は創立50周年(創業119年)を迎え、そして事業発展計画発表会は21回を数える。この間の成果は、まるで遅々とだらだら坂を登る歩みであった。
 昨年末、銀座で偶然入った小さな小さな画廊の一枚の絵の前で、私はしばらく時間の経過を忘れて立ち尽した。そこに今年一年の指針である『火の鳥』の絵があった。

 私は今再び、精魂こめて、お客様に対する考え方、あらゆるサービスの姿勢、心、信念する経営思想を書く。全社員とその家族が、気力を漲らせ、豊かで、明るい生活を営むために遂行しなければならない必達の利益が明示してあり、それを実現するすべての戦略、方針、構想、実行手段が網羅されている。
 私は大いなる願望(マリンドリーム)達成に向い、ひたすら精進し、方向を決定し、理念を固め、誠意をもって、情熱あふれる経営を推進することを、天から課せられた使命だと考え、実行する。

平成19年1月27日
取締役社長 吉村直樹