飛天
平成18年 「ディープインパクト(強靭であることの遺伝子)」
- 飛 天 -
(平成18年度事業発展計画書より)拝啓 小泉純一郎様
塩野七生
前略......ヨーロッパのマスコミの見出しはほぼ一致して、『日本は改革を選んだ』と、9月11日の総選挙の結果を報じていました。私があなたに最初に注目したのは、今から7年前、あなたが『新潮』誌上に書かれた一文からです。その文は国会議員が在職25年を過ぎるともらえる永年勤続表彰を辞退なさったことから始まっていたのですが、それを読んだ私は、この人は健全な常識の持主なのだと思ったものでした。なぜなら、まだ国会議員として給料を受けていながら、在職25年を過ぎると特別手当ても月々30万円受けられるとは、・......その中には森喜朗、小沢一郎、土井たか子もいるから、これはもう、既得権に浴せるならばもらっちゃうというのは、保守も革新もないとわかったのでした。
......あらためて読み返してみてわかったのは、あの頃からずっとあなたの軸足はブレていない、ということです。
『これからの最大の政治課題は、何といっても行財政改革である。行財政改革というのは、これまでの既得権を手離さなければできない仕事である。......』『郵政三事業民営化論で私の言わんとしていることは、至極単純明快である。民間でできることなら民間にまかせればいい。......』『日本を変えるか、変えられないかといった議論をしているときではなく、変えないとダメになってしまうのである。......全てが変わってきているのだ。それなのに政治と行政だけが、手をこまねいていてよいわけがない』......自民党の要人の一人と話したことがあります。その人は、あなたは常識に反していると言ったので、私は言い返したのでした。その常識は、永田町の常識にすぎないのではないか、と。
そして今回の総選挙の前後に書かれた論評を読んで、『永田町の常識』とは、国会議員だけでなく、その周辺にいる記者や学者や評論家や官僚たちの『常識』であることがわかったのでした。それらは、勝ちはしたが改革は郵政だけではないとか、有権者も小泉にしてやられるとは情けないとか、まあ私には往生際が悪いとしか思えませんが、......そして既得権に縛られていない世間の常識は、あなたに同意であることを示したのでした。
......しかし、盛者は必衰であり、諸行は無常です。今回の大勝が、政治家としてのあなたの『終わりの始まり』にならないとは、誰一人断言できないでしょう。
日本は改革を選んだ、と報じたヨーロッパのマスメディアは、小泉首相はあと一年でやめると言っている、と報じています。それは彼らが、一国の最高責任者ともあろう人が退陣の時期を明確にすることを、国益に反する行為と考えているからです。バーゲンセールが一週間後とわかっていて、買物するのはバカのやること。......日本に譲歩するしかないかと思い始めていた国の政府は、あなたの退陣まで待つでしょう。
......男の美学に殉ずるとか、潔く身を引くとか、優雅なリタイアを愉しむとかは、あなたのように高い地位と強大な権力を与えられている人の言うことではなく、それらには恵まれなかった一般の人々のためのものなのです。......私かあなたに求めることはただ一つ、「刀折れ矢尽き、満身創痍になるまで責務を果しつづけ、その後で初めて、今はまだ若僧でしかない次の次の世代にバトンタッチして、政治家としての命を終えて下さることなのです。ブォナ・フォルトゥーナ(グッド・ラック)、ミスター・コイズミ。」
(文芸春秋2005年11月号)
事業の繁栄発展の究極は、たった二つのコンセプトから成り立っている。
―つは成長拡大させること。もう一つは安定させることである。この二つの哲理を同時に戦略課題とし、実行して、はじめて繁栄発展が起こる。二つのうち、どちらかのーつが欠けても事業の繁栄発展はあり得ない。
先見性を養う秘訣を問われ、松下幸之助は答える。「ほんとうをいうと、先は見えないんじゃないでしょうか。けれども、永年経営の仕事をしていると勘がはたらくんですな。勘がはたらくかはたらかんか。これは大きな問題です」。時流に先んじようとしても、なかなかむずかしく、暗中模索であるという。「目の不自由な人が、杖を頼りに歩いていて、あまりけがもしまへんわ。僕も杖をついて、先を探りながら歩くような方法をとってきたに過ぎん。だから、けががなかったんですな。それでも向こうからぶつかってくる場合がある。私のやり方も、よくいえば手堅いし、わるくいえば恐れおののきながら模索してきただけですよ」。
「ザ・リッツ・カールトン大阪は大阪地区の高級ホテルとして最後発に近い1997年5月に開業して以来、瞬く間にホテルランキング大阪地区1位を獲得し、一昨年、昨年と2年続けて日経ビジネス『企業トップが選ぶベストホテル』東京大阪地区総合1位、ワールドベストアワード『ビジネス・エグゼクティブ・ホテルランキング』で世界2位の称号を獲得した。同ホテルは宿泊客の約45%が2回目以上のリピーター客だ。『もう一つの我が家』を目指す従業員のホスピタリティー(もてなしの心)が宿泊客をひきつけている。『紳士淑女である客を家族としてもてなす、自らも紳士淑女の集団だ』。全従業員が携帯する『クレド(ホテルの信条)』には次のことが記載されている。『◎私たちはサービスのプロフェッショナルとして、お客様や従業員を尊敬し、品位を持って接します。◎従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています。◎最高のパーソナル・サービスを提供するため、従業員には、お客様それぞれの好みを見つけ、それを記録する役目があります。◎お客様を一人として失ってはいけません。すぐにその場でお客様の気持ちを解きほぐすのは、従業員一人一人の役目です。......』」
「人間は誰でも、本来、何事をも、自分が深く思い、考えた通りに成すことが出来る。自分がもし出来ないと思えば何事も出来ないし、出来ると信念すれば、何事もなすことが出来る。つまり、すべてが、自分自身に課した信念のとおりになる」
(中村天風「成功の実現」)
手元に昭和61年5月(20年前)に富士山の麓の研修センターで書いた『私の任務』と言う私のレポートがある。
1.当社の未来像(ビジョン)を描き全社員に知らしめる。
2.ビジョンに基き、長期及び短期の経営計画を作成し、全社に周知徹底する。
3.経営計画達成に向けて各部門を統括し、管理する。
4.顧客情報を収集し社内にフィードバックさせると共に、大口得意先には定期訪問を行い、良好な関係を維持する。
5.金融機関、株主、大口仕入先に当社の業績、方針の報告をし、協力を求める。
6.クレーム発生には細心の注意を払い、発生したクレームは迅速な対応を指示する。
7.同業界内での協調を維持し、地位向上をはかる。
8.顧客のニーズに合った新製品開発を怠らない。
9.社内組織の改正、製品の改廃、重要戦略の見直しは、直接決定する。
10. 円滑な人間関係と規律ある職場作りを行う。
11. 次代を担う人材の発掘、採用を欠かさず、教育、指導を徹底する。
12. 地域社会との良好な関係を築きあげる。
昨秋、イギリスのプリムソールと言う見知らぬ会社から英文と和文の混ざったレポート冊子が届いた。タイトルは『日本の乳製品製造会社分析 上位75社』。各社の売上増加、税引前利益率、従業員数、平均給与などから総資産、借り入金、流動資産、減価償却など、どこから入手したのか分析は多岐にわたり、それらを有力者、行動者、会社価値、付加価値、活動者、キャッシュリッチ、効率の先行者など見慣れない言葉も含む16項目ごとにランキングし、最後にこれらを勝ち組18社、機運組16社、睡眠組17社、負け組18社に分類する刺激的なものであったが、マリンフードは大手乳業メーカ―を差し置いて勝ち組の7位にランキングされていた。
今年で事業発展計画発表会は丁度20回を数える。富士山の麓で「私の任務」を書いて8ヶ月後の昭和62年1月が第1回であった。しかし、この間の成果はあまりにも小さく、まるで遅々とだらだら坂を登る歩みであった。
昨年11月、縁があって金沢大学の「ベンチャービジネス論」と言う講座で「事業発展計画書」と言うタイトルを掲げて講義をする機会を得た。後日学生の感想文が手元に送られて来た。
「よくテレビドラマなどで、会社のお飾り的存在で社長が描かれているけれども、社長たるもの綿密な事業計画を立て、事業に人生をかけるくらいの勢いがあるべきなのだと知りました」「考え方によっては、日常の何気ない行動(窓を開け閉めするなど)にも自分の性格がでているとは思わなかった」「夢のある話だった。話が豪快でおもしろかった」「考え方を改めようと思った。なにげない日常にもボンクラでナマクラな自分が現れていると分かったので」「話を聞いているだけで鳥肌が立って、やっぱり情熱が伝わってくる感じがします。資格をいくら取ってもそれを活がせる行動力がなければ、行動する方法を知らなければ意味がないというのはすごく心に突き刺った」「私達今大学生の人達が働く時代は楽しくなると話した人は初めてだ。皆暗い時代が来ると言っているのに」「自分もこれからは目的(希望)を持って生きていこうと思います。ありがとうございました」。私自身が学生から大きな激励を受けた。
私は今再び、精魂こめて、お客様に対する考え方、あらゆるサービスの姿勢、心、信念する経営思想を古く。全社員とその家族が、気力を漲らせ、豊かで、明るい生活を営むために遂行しなければならない必達の利益が明示してあり、それを実現するすべての戦略、方針、構想、実行手段が網羅されている。
私は大いなる野望(マリンドリーム)達成に向い、ひたすら精進し、方向を決定し、理念を固め、誠意をもって、情熱あふれる経営を推進することを、天から課せられた使命だと考え、実行する。
平成18年1月28日
取締役社長 吉村直樹